世界的な感染症が蔓延している昨今、漢方でももちろん感染症の認識はあります。
韓国ドラマの時代劇などを見ていても、よく町で疫病が流行っているといって、白い布を顔に巻いて治療に当たる医療者達の姿があります。
今日は、そういう疫病とは違うのですが、これもいわゆる感染だと思われるものをご紹介します。
家庭や職場などで、誰かがイライラしていたり、怒っていると、周囲の人達もだんだんイライラしてきたり、ピリピリと空気が悪くなることってありますよね。
これはある意味で、イライラが感染していると見ることができます。
イライラなどの症状は、漢方では主に“肝気鬱結(かんきうっけつ)”と言われるものに区分されることがあります。
のびのびとしたい性格の肝という臓器は、外からのストレスに大きく影響を受けます。
肝は、全身に必要な気や血というエネルギーを必要な分だけ送り届ける働きがあり、これを“疏泄(そせつ)”と言いますが、ストレスを受けると、この働きが低下してしまいます。
すると、気血の流れが滞ることになり、イライラしたり、息が詰まったり、怒りっぽくなったりして、これが先ほどの“肝気鬱結”なのです。
これが感染症なの? と思いますが、冒頭に書いたように、実際、感染るわけです。
それは決して、ウイルスだとか菌だとかいうわけではなく感染ります。
漢方薬の中に、抑肝散(よくかんさん)というものがあります。
現在では、小児の疳の虫や暴力的になった認知症の高齢者などに使う薬です。
この抑肝散が歴史上初めて書かれた書物は、『薛氏医案・保嬰撮要・肝臓』(明・薛鎧、1555年)であり、そこにはこう書かれています。
肝経の虚熱にて搐(ちく)を発し、或は痰 熱し咬牙(こうが)し、或は驚悸し寒熱し、或は木 土に乗じて痰涎を嘔吐し、腹脹し少食し、睡臥 安からざるを治す。
柴胡 甘草 川芎 当帰 白朮 茯苓 釣藤鈎
水もて煎じ、子母同服す。
小児の引きつけや震え、夜泣きなどの症状に使うということですが、最後のひと言に注目!
子母同服…
子供の病気なのに、母親も一緒に飲むように書いてあります。
今は男性も子育てを協力し始めた時代ですが、それでもなお子供と接する時間が長いのは今も昔も母親。
母親のイライラが子供に感染して、子供の病気となって出ている。
逆に子供の病気が、母親のイライラを起こしている。
これが悪循環で双方に影響を及ぼしている。
そう考えて親子で飲んだ方が良いと考えたのでしょう。
ここからも、イライラは周囲に感染してしまうのです。
今はアンガーコントロールというものもありますが、日頃からストレス発散などして、自分や周囲へイライラを生じさせないようにしましょう。