むかしむかし、あるところに、胡という官吏がおりました。
胡の屋敷には、下働きの者達が働いていましたが、その中の一人が寒けと熱を繰り返す病気にかかってしまいました。
胡は、他の者に伝染しては大変だし、第一働かないのでは困ると思い、出ていかせることにしました。
体調も悪く身寄りも無い男は、胡に抗議しましたが、元気になったら戻ってこいと言われ、渋々家を出て行くことになりました。
しかし、具合の悪い男は、道中も寒けと熱を繰り返し、フラフラと池のほとりの茂みに倒れて動けなくなってしまいました。
起き上がることのできなくなった男は、周りの土を掘り、そこにある根っこを食べて上をしのぐこと七日…手の届く根っこは食べ尽くしてしまいました。
そこで、試しに起き上がってみると、今までがウソのように元気になっていました。
男は胡の元に戻り、再び働き始めました。
しばらくすると、胡の息子が男と同じような病気にかかってしまったのです。
胡はどうしたもんかと考え、男が同じ症状だったことを思い出し、呼び寄せます。
「どうやって治ったのだ?」
「どうもこうも、池のほとりに倒れて、いつもたきぎに使ってる柴の根っこを食べてただけですよ」
胡は男にそこにすぐ案内するように告げ、池のほとりに行き、根っこを掘って持ち帰り、煎じて息子に飲ませてみました。
すると、数日もするとみるみる元気を取り戻しました。胡はこの草に名前を付けようと考え、たきぎに使う柴と自分の名前の胡を合わせて、“柴胡”と名づけました。
柴胡は、漢方では疏肝解鬱などを期待して使用し、四逆散・柴胡疏肝散・逍遙散などに配合されている生薬です。